ちょっといい話

ある会社が配信している「ちょっといい話し」という素敵な話を見つけました。

           『赤ちゃんの仕事』
◇東京にいた、今から16年ほど前の12月も半ばを過ぎたころのことです。
 私は体調を壊し、週二回 中野上坂の病院に通院していました。その日は今にも
 雪が降り出しそうな空で、とても寒い日でした。

 昼近くになって、病院の診察を終え、バス停からいつものバスに乗りました。バスは座る席はなく、
 私は前方の乗降口の反対側に立っていました。 車内は暖房が きいて、外の寒さを忘れるほどでした。
 間もなくバスは東京医科大学前に着き、そこでは多分、病院からの帰りでしょう 、どっと多くの人が乗り、
 あっという間に満員になってしまいました。
 立ち並ぶ人の熱気と暖房とで、先ほどの心地よさは一度になくなってしまいました。
 バスが静かに走り出した時、後方から赤ちゃんの火のついたような泣き声が聞こえました。
 私には人で見えませんでしたが、ギュウギュウ詰めのバスと、人の熱気と暖房とで、小さな赤ちゃんにとっては苦しく、
 泣く以外に方法がなかったのだと思えました。
 泣き叫ぶ赤ちゃんを乗せて、バスは新宿に向かいました。バスが次の停留所に着いた時、何人かが降り始めました。
 最後の人が降りる時、後方から、「待って下さい。降ります」と若い女の人の声が聞こえました。
 その人は、立っている人の間をかき分けるように前の方に進んで来ます。その時、私は、子供の泣き声がだんだん近付いて来る ことで、泣いた赤ちゃんを抱いているお母さんだな、とわかりました。
 そのお母さんが運転手さんの横まで行き、お金を払おうとしますと、運転手さんは、「目的地はここですか?」と聞いていま  す。その女性は、気の毒そうに小さな声で「新宿までなのですが、子供が泣くので、ここで降ります」と答えました。

 すると運転手さんは、「ここから新宿まで歩いて行くのは大変です。目的地まで乗って行って下さい」と、その女性に話しまし た。そして急にマイクのスイッチを入れたかと思うと、「皆さん!この若いお母さんは新宿まで行くのですが、赤
 ちゃんが泣いて、皆さんにご迷惑がかかるので、ここで降りると言っています。子供は小さい時は泣きます。赤ちゃんは泣くの が仕事です。どうぞ皆さん、少しの時間、赤ちゃんとこちらのお母さんを一緒に乗せて行って下さい」と、言いま
 した。私はどうしていいか分からず、多分みんなもそうだったと思いますが、ほんの何秒かが過ぎた時、「パチパチ」と、一人 の拍手につられて、バスの乗客全員の大きな拍手が返事となったのです。若いお母さんは、何度も何度も頭を下げていました。
 今でも、この光景を思い出しますと、目頭が熱くなり、ジーンときます。
 優しさと思いやりがいっぱいの話ですね。